ムラサキの文学日記

短編小説、現代詩、俳句、短歌、随筆

凶暴〜庭に咲く小さな花の正体

「僕のフィールドノート 庭草の話」 

 

■序文

我が家の庭に名も知らぬひさき花が咲く。

真っ直ぐと細き茎が立ち風に揺れる。その先端が五つ六つに分かれて其々に白き花が咲いた。夏になる前に花の季節を迎えて、それは初夏の風に涼し気に揺れた。夏になって花は落ちたが、柔らかな針金のような草は残った。

秋になってまた花が咲いた。

やはり小さな花である。

可憐とはこのようなものであろうか。

花の大きさは小指の爪ほど。小さくて近くに寄らなければ花にも気付かぬ。飾りに派手なところがない。しかし、花弁の中には黄色い雌しべと雄しべを有して、確かに花である。

眺めて愛でて、図鑑を調べしが、見つからず。

僕はこの花に水をやったり、風から守ったりと大切にしていたら実が生った。即ち種子である。子孫を残すための美しき機構。

花が種を宿すとはなんと美しい事なのだろう。種子は安穏と地に落ちて、発芽し、新たな株となり。我がちひさき花は斯様にして庭に少しずつ殖えていくのであった。

 

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「僕はいずれ庭にこのちひさき花の花畑を作らふ。」

この花はちひさくて主張は弱けれども、嗚呼、僕は野の花に囲まれて暮らしたし。

 

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■事の起こり

 

などと、花の前に座して日向ぼっこをしていたメルヘンな午後。

日曜日であった。

このちひさき花の名前が俄に判明する。

 

外部リンク 「 ハタケニラの恐怖 :: norari-kurari 」

 

「ハタケニラ・・・の恐怖・・・?」

ハタケニラとは聞いたことのない名前であった。
早速Wikipediaで調べてみる。

 

本種は花から種子を形成する他に、地下茎に鱗茎を形成し、繁殖する。特に鱗茎による繁殖力は驚異的であり、しばしば害草として扱われる

 

「害草…??」とな?

小首を傾げつつ、僕は続きを読むのであった。

 

繁殖と駆除

本種は繁殖力が非常に強く、一端侵入を許すと駆除は困難となる。その主な原因は、地下茎に大量の鱗茎を形成することにある。この鱗茎1つ1つから容易に再生し数を増やすため、雑草として処理する際にはこれを全て回収しなければ、いずれ再生することになる(地上部を刈り取っても意味が無い)。また、この鱗茎は1粒が小さくポロポロとこぼれやすいので除去の際に飛び散りやすく、下手に除去しようとすると大繁殖を許してしまうことになる

こうした性質から、特に農地での影響は深刻であり、農業に従事する者からは強害草として忌み嫌われる。Wikipediaより)

 

要約すると地下にある鱗茎が増殖して、大量に繁茂する雑草。という趣旨のことが書かれている。迂闊に除草を試みるともっと殖えてしまう?

もしかして。

ちょっとコレは不味いのではないか。

そう、事態は大変不味い。

可憐な小さき花などと言っている場合ではなかった。

「いずれは花畑」等と脳髄の湧いたことを言っている場合ではなかった。

我が家の庭は人知れず危機に瀕していたのだ。

 

■正体が知れる

もはやハタケニラなる極悪植物の侵略は我が庭に確実に広まっている。驚異的な繁殖力。

道理で何もしないのにモサモサ増える訳だ。日を追うごとに一株一株、増えていく。それを可憐な花の健気と、受け取っていたが、大間違いである。思い返せば其れが、この植物の特徴であり、悪意ある侵略のはじまりであったのだ。

この時の僕の感情を端的に表せば、即ちそれは恐怖である。

僕は忘れていたのだ。

園芸(庭いじり)は自然との戦いである、と。

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ほら、見てご覧。

モッサモサである。

こんなのが、いつの間にかいくつも株を作ってしまった。その中には一際巨大に成長した株だってあるのだ。そいつはもう森林のように物凄いことになっている。

 

その群生はWikipedia曰く、「抜くのに失敗して鱗茎が飛散し、爆発的に増えてしまった」ハタケニラなのだ。ことごとく駆除に失敗すれば、どの株も森林の如くに巨大化するのだ。

僕は改めてハタケニラに恐怖する。

 

 

■駆除を決意

日曜日の正午である。

僕はお昼ご飯にカレーを温めて食べようか思っていた。お米も炊けているし、後は盛り付けるだけなのだ。穏やかで安らぎの一時である、本来ならば

 

だが、僕は安らいでいる場合ではない!
断固として自然に闘わねばならない。種の存続を懸けねばならない。

ハタケニラが勝つのか、人間が勝つのか。僕は戦わなければならない。

つまり、駆除だ!

いつやるの?

今だよ!

人間よ、庭を守れ。

断じて、いま立ち上がるのだ!

 

駆除開始

僕は外に出てやおら草を掴み、ハタケニラの奴めを引っこ抜こうとした。

張り巡らされた根茎につられて土がめくられる。

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(引き抜きやすくするため、水を撒きました。)

これだ!諸君、見給え!

土から出てきた鱗茎を!

今にも零れ落ちようとする小粒な鱗茎の群体を。
ひとつひとつが命である。
種の存続の意志である。
即ち我が庭に対する攻撃である。

なんという凶暴!

そして強壮の意思!

 

こんなものが全て発芽したら我が家の生態系はすべからく滅ぶ!

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我が庭を守るのは我である。
小さな極悪は
許さじ!

 

そして。

とりあえず抜いてみた。

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土の中に沢山の鱗茎が零れてしまった!

こいつら難なく分散しやがる!

一大事だ!

一粒たりとて落としてはならぬ!

対処は如何に!

 

ここで園芸指南書は曰く。

落ちた鱗茎には必殺「テデトール」で対処すべし!

 

■テデトールとは

解説しよう!

園芸人の必殺技「テデトール」とは!


園芸に仇なす敵をすべからく

「手で」!

「取る」!

のだ!

(他に園芸用語として「フミツブース」、「ダンナヨーブ」などの亜流技がある。)

 

これ全部拾うんですか?

指南書曰く。
「拾って下さい。増えちゃうから。」
 

ボロボロにこぼれ落ちた鱗茎をとにかく拾う。
一粒でも残せば、其れが発芽し株となる。
つまり殲滅しない限り、増えるのだ、彼らは。

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 (拾われた鱗茎)

とりあえず拾いました。

しかし、全部拾い切ったかどうかは不明。

だって小さいし、土に潜ってしまえば何処にあるのか、もう分からない。

 

 斯様にして、僕はようやく一株を駆除したわけだが。

庭を見渡せばハタケニラは他に二十株ほど生えている。

もう、手遅れではないだろうか、これ。

 

パニック映画の絶望シーンのようだ、と僕は思う。

凶悪な怪物に仲間が何人も殺される。もう全滅かもしれない。
それでも主人公たちは力を合わせて怪物に打ち勝った。
満身創痍である。もう一歩も動けない。

しかし、怪物は一匹ではなかった。

主人公が見たものは夥しく巣食う怪物の群れ・・・。

 

僕は目を細めて庭の其処此処に咲いた、白きちひさな花を眺めていた。

 

■最凶伝説

つまり、ハタケニラは抜かれた時に「鱗茎の子ども」を飛散させてしまうと、

それらがそれぞれ発芽をし、爆発的な増殖をする。

「鱗茎の子ども」の数は多く、抜き方がずさんだと、20倍くらいに増える。

だからと言ってこれを放置すれば、種子が落ちてそれぞれが発芽して、やはり新たな個体に生長する。

地下からも、地上からも増殖する術を持つ最凶の雑草である。

 

ましてや発芽したばかりのハタケニラは草の構造が弱く、抜こうとするとすぐに千切れる。そしてハタケニラの本体たる鱗茎は地下に残る。つまり、彼らは地下で易々と増大するのだ。

生えてきたハタケニラに対して、小さなうちに土を掘り返して駆除するしかない。

 

なんて嫌な草なんだ。

少しでも愛でていた自らを悔悟する。

時間よ戻れ。

 

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とりあえず抜いた株を洗ってみた。

主の鱗茎の周りに小さな鱗茎がくっついていることがわかる。
茶色く成熟した鱗茎は既に零れ落ちた後である。


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アップしてみた。見れば見るほど凶暴である。

 

だが僕は。

 

彼らの持つ必死さ、つまり、計り知れない程長久の年月をかけて構築された生命の機構に、僕はつい心を奪われるのだ。

 

庭の主として僕は失格かもしれない。

 

この白き球根に憎たらしさを感じつつ、尚その美しさに魅了される。

それは生命に対する憧憬の一形式であるのだ。


まずは彼らに称賛を送りたい。

生命の畏敬を称えたい。

 (全部駆除はするけれどね。)

僕の庭ではなく、また何処かで。

心置きなく殖えるがいい。

いずれまた会おう、どうかそれまでお元気で。

 

 

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■終章

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小さな白い花に注意されたし!

あなたの庭に知らぬ間に飛来した種子は、

あなたの庭を侵略する脅威かもしれません。

 

というお話でした。

今回は10株程抜いて残りは来週。

結局鱗茎をこぼさないために周囲の土ごと捨てなければならない。

これでは庭に土がなくなってしまう。正直、困った。

 

 

■おまけ

 

こんなに増えるのなら、せめて食べられれば良いのにね。

名前もハタケニラだしさ。

 

園芸指南書「ハタケニラには毒があるらしいよ?」


人間にとって何処までも嫌な草である。

 

(「僕のフィールドノート 庭草の話」村崎懐炉